冬の、秘境へ
ある年の冬。私は何人かの友人とともに、南信州の秘境へ向かっていた。
長野県の南の端、赤石山脈――南アルプスの西の麓に、遠山郷と呼ばれる谷あいの里がある。新幹線も高速道路の出口も遠く、くねくねと山道を登った先にようやくたどり着く、文字どおりの「秘境」だ。
そもそもの言い出しっぺは、各地の山間地域にやたらと詳しい友人だった。「面白いところがあるから」と、ただそれだけの理由で、私たちは冬の谷へ遊びに行くことにしたのだった。
正直なところ、もう記憶は薄い。それでも、数少ない観光スポットをひとしきり見て回ったことは覚えている。「ビュースポットがある」と聞いて勇んで向かえば、その入り口はほとんど獣道のようなものだったし、夜は囲炉裏を囲んで、目に染みるほど煙い思いをした。
けれど、その不便さこそがよかった。煙たさも、心細さも、ぜんぶひっくるめて――ここには確かに、ほかでは味わえない秘境感があった。
このとき私は、まだ知らない。この谷に、これから何年も通うことになるなんて。
※ 本作は実話をもとにした読み物です。臨場感を出すため、AI による編集・脚色を加えています。事実を忠実に再現したものではありません。